第2章 君のいない人生は本当に退屈

エマ視点

私は立ち上がり、ハンドバッグからずっと持ち歩いていた書類を取り出す。離婚届だ。

「いつかこんな日が来るんじゃないかと思って、ずっと持っていたの」

私は静かにそう告げる。

マーカスの声には苦しみが滲んでいた。

「エマ……この二年間、君の僕への気持ちは……」

「最初はただの契約の一部だった。でも、あなたは案外まともな人だったわ」

一度言葉を切り、彼の目を見る。

「マーカス、もし他の道があったなら、もし私がただの普通の人だったなら……」

そこまで言って、口をつぐむ。

「でも、違う。最初からそうじゃなかった」

「じゃあ、君は……」

「行かなきゃならない。ヴィクトルの言う通りよ。全てに決着をつける時が来たの」

スターリングさんの声には、心からの心配がこもっていた。

「エマ、一億ドルの懸賞金となれば……世界中の暗殺者があなたを狙うことになりますぞ」

「わかってる」

サングラスとスカーフを最後にもう一度直し、そう答える。

「でも、まだ24時間ある。ここは私の世界。二年間、逃げ続けてきた。今こそ、自分が何者なのかと向き合う時よ」

離婚届を机に置き、結婚指輪を外す。そして、マーカスの手のひらにそっと乗せた。彼の目には涙が浮かんでいたが、私を引き止めようとはしなかった。

「二年間、穏やかな時間をくれてありがとう」

私は彼に告げた。

「エマ……どうか、気をつけて」

私はドアに向き直る。その足取りは固く、迷いがない。屋敷の正面扉を押し開けると、夜風がスカーフを捉え、はためかせた。

通りは普段通りの生活を送る人々で賑わっているが、この瞬間から、すれ違う全ての視線が敵のものである可能性があると分かっていた。でも、怖くはない。私はスワンズ。たとえ今は一人でも。

「スワンズ……」

私は自分に囁く。

「そう呼ばれるのは、ずいぶん久しぶりね」

そして、私は夜の闇へと姿を消した。

手近なタクシーに滑り込む。運転手がバックミラー越しにこちらを値踏みしている。その目にはドルマークが浮かんでいるのが見えるようだ。

「懸賞金が有効になるのは24時間後よ」

助手席に金貨を一枚弾きながら言う。

「今殺したって、一銭にもならない」

運転手に行き先を告げ、シートに深く身を沈める。街の灯りが窓の外を流れていく。ふと、意識は四年前の過去へ、全ての始まりの場所へと飛んだ。

四年前、あの安っぽい旅館で目覚めた時、私は夢を見ているのだと思った。前の人生が、あまりにもリアルに感じられたからだ。病院のベッドで死んだこと、子供たちが泣いていたこと、そして最後に感じたあの安らぎを、はっきりと覚えていた。

でも、旅館の部屋から一歩外に出た時、最初に目にした光景が、これが夢ではないと教えてくれた。

白昼堂々、路上で、男が別の男を撃っていた。それなのに、まるでそれが当たり前の光景であるかのように、人々は横を通り過ぎていく。

私の前の人生は、七十数年間、この上なく安全だった。唯一の後悔は、それが退屈すぎたことくらい。心が本当に高鳴るような経験は一度もなかった。死んで、ここで目覚めた時、まるで誰かがようやく私の祈りを聞き届けてくれたかのようだった。

その頃は、ただここは治安が最悪なだけの街だと思っていた。

記憶が切り替わる。私は再びあの路地を歩いている。この奇妙な新しい世界に来て二日目のことだ。物事の仕組みについて基本的な質問ができる相手を探していた。その時、暗がりから息遣いが聞こえたのだ。

中に入るのをためらったのは、ほんの二秒ほどだったろうか。

「そこにいるのは誰だ?」

半死半生といった様子に反して声は鋭く、その警戒心は研ぎ澄まされていた。

「あら、別に怪しい者じゃないわ」

私は呼び返した。

「大丈夫かと思って見に来ただけ」

路地の奥深く、血まみれの女が、かろうじて息をしながら、まっすぐに私へ銃を向けていた。その目は追い詰められた獣のようだったが、呼吸はあまりに浅く、今にも止まってしまいそうだった。

怖くはなかった。安全すぎた前の人生が、私の危険察知能力を殺してしまったのかもしれない。あるいは、生まれ変わったことで、何か馬鹿げた勇気が湧いてきたのかもしれない。私はまっすぐ歩み寄り、その場にしゃがみ込んだ。

「助けが必要ね」

私は言った。

彼女は気を失い、銃が指から滑り落ちた。

旅館でのあの夜を思い出す。彼女がようやく意識を取り戻した時のことだ。彼女はすぐに逃げ出そうとしたが、私はその腕を掴み、きっと頭がおかしいと思われたであろう質問を立て続けに浴びせた。

「どうしてここでは人殺しが違法じゃないみたいに見えるの? 警察は一体どこにいるのよ?」

彼女はまるで宇宙人でも見るかのように私を見た。

「本気でこんなこと知りたいわけ? 普通の人間なら逃げ出すところよ」

「バンジージャンプよりよっぽどマシだわ!」

私は言い返した。

「仲間に入れて!」

その時、彼女が全てを説明してくれた。

「この世界には、一般人に紛れて地下の暗殺者が暮らしている。私たちには独自のルール、独自の金、独自の安全地帯がある。誰かを殺したら、選択肢は二つ。暗殺者になるか、刑務所に行くか」

私の目はクリスマスの朝のように輝いた。危険とアドレナリンに満ちたこの世界!これこそ、私の退屈だった前の人生でずっと欠けていたものではないか?

「暗殺者の世界はテーマパークじゃない」

彼女は冷たく言った。

「ええ、でも食料品の買い物をして死を待つよりはマシに決まってる」

私は言い返した。

一晩中考えた。前の人生の安全性と、この新しい人生の可能性。それに、この謎めいた女には何か惹かれるものがあった。朝になる頃には、私の決心は固まっていた。

「私、暗殺者になりたい」

私は宣言した。

「あんた、頭おかしいんじゃないの。銃なんて握ったこともないくせに」

「じゃあ教えて。私、物覚えは早いのよ」

彼女は永遠とも思えるほど私をじっと見つめていた。まるで、すでに死んだ人間を見ているかのように。やがて、苦々しい笑みを浮かべて首を振った。

「いいわ。でもコードネームが必要ね」

「スワンズは一生添い遂げる」

彼女は説明した。

「この残酷な世界で生き残るなら、スワンズのようにならなきゃ。何があっても一緒、決して離れない」

「スワンズ。気に入ったわ」

あの頃は、本当に私たちが離れることなんてないのだと信じていた。

その後の二年間が、記憶の中で駆け巡る。廃倉庫や空き地での訓練。レイヴンの過酷な指導の下、私は撃ち方を、戦い方を、殺し方を学んだ。

少しずつ、彼女は自分の身の上を語ってくれた。

彼女はドイツのある犯罪一家の娘だった。ヴィクトルの手下が薬物取引の提携話を持ちかけてきた時、彼女の家族はそれを断った。だから、ヴィクトルの部下は一家を皆殺しにしたのだ。

「あの夜、ヴィクトルの部下は全員殺した。父さん、母さん、弟も。みんな。逃げられたのは私だけだった」

「だから麻薬の売人だけを狙うのね」

「これは正義じゃない。復讐よ」

私たちは完璧なシステムを築いていた。私が表に立って注目を集め、彼女が影から事を運ぶ。誰もが「スワンズ」は私一人の単独犯だと思っていた。

二年間、私たちは蟻が象を倒すように、ヴィクトルの帝国を少しずつ削り取っていった。標的を仕留めるたびに、レイヴンの目に宿る復讐の炎がより一層明るく燃え上がるのが見えた。

だが、私たちはヴィクトルのファミリーを苛立たせていた。特に彼らがハイテーブルの席を狙い始めてからは。私たちは彼らにとって最大の頭痛の種になっていた。

そして、二年前のあの夜が来た。全てが地獄に変わった夜。

最後の任務は、最初から何かがおかしかった。罠に足を踏み入れるかのように、あまりにも簡単すぎた。だがレイヴンは、やり遂げるべきだと主張した。ヴィクトルの組織を完全に破壊する好機かもしれない、と。

四方を囲まれ、敵だらけで逃げ場がないと気づいた時、ヴィクトルが完璧な罠を仕掛けたと悟った。

私はベルトの爆弾に手を伸ばし、全員を道連れにする覚悟を決めた。少なくとも、レイヴンだけは生きて脱出できるだろう。

だが、起爆させようとしたまさにその瞬間、地下から大規模な爆発が起こった。

レイヴンは地下室にいた。私が決断を下す前に、彼女が選択していたのだ。

爆風で私は宙を舞い、凍えるような川に叩きつけられた。岸辺で目を覚ました時、世界は死んだように静まり返っていた。

電話に、一件のメッセージが届いていた。

「エマ、先に行く。寂しがるなよ。まともな男を見つけて結婚し、私たちの分まで幸せに生きるんだ」

私はその携帯を握りしめ、一晩中泣き続けた。それ以来、「スワンズ」はもう存在しない。ただ、普通に生きようとするエマ・スターリングがいるだけだった。

タクシーが急停車し、私は現実に引き戻された。夜はさらに深まり、私はサングラスをかけ直す前に目を拭った。

二年間。あんな痛みは乗り越えたと思っていた。だがヴィクトルが戻ってきたことで、全てが決壊したダムのように溢れ出してくる。

レイヴンなしの二年間は、もう十分だ。もしこれが再会のチャンスなら、嵐よ、来い。

私は前を見据える。そして二年間で初めて、心から笑っていた。

「あなたを見つけに行く時間よ、レイヴン。あなたなしの人生は、本当に退屈だわ」

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